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和歌山地方裁判所 昭和42年(ワ)343号 判決 1969年8月21日

原告 鍵本勝一

<ほか八名>

右九名訴訟代理人弁護士 宇都宮綱久

被告 進和荷材株式会社

右代表者代表取締役 和田豊治

被告 山崎真澄

右両名訴訟代理人弁護士 児玉憲夫

主文

一、被告らは各自、原告鍵本勝一に対して金一〇〇万円、その余の原告らに対し各金四二万五、〇〇〇円および右各金員に対する昭和四二年一一月二〇日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

四、この判決の原告ら勝訴の部分は、仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、原告ら主張の日時、場所に於て、主張のような本件交通事故が発生し、鍵本コトヨが死亡したこと。被告山崎は被告車の所有者であって、雇っている運転手清川によって運行の用に供している際に右事故が生じたのであることは、当事者間に争いがない。そうすれば、被告山崎は自賠法第三条の保有者として本件事故に基く後記認定の損害を賠償する責任がある

二、被告進和荷材株式会社の責任

≪証拠省略≫を総合すると、被告会社は昭和二五年に設立され、大阪市内の船場で包装資材の卸売をしていたが、昭和三六年末頃、高槻市に工場を設置してここに移転し、新たに段ボール、パッキングケース等の製造、販売を開始し、従来に比し営業領域を拡大した。これに伴って輸送関係をも確保して置く必要があったので、その頃出入の運送業者の運転手として働いていた訴外山崎登志哉に対し、被告会社の新工場で輸送を専門にやる気はないかと勧め、同人はこれに応じて山一運送店の商号で昭和三七年一月頃から被告会社と提携して被告会社に専属する運送事業を始めたこと。そして昭和三八年三月頃から右山崎登志哉に代って同人の兄に当る被告山崎が経営者となり山一運送店を統轄してきたこと。一般に顧客を募る必要はなく被告会社のみの運送に当っているので、当初は営業免許なく業務を行っていたが、昭和四〇年三月には被告会社の高槻工場の委託貨物についてのみの限定的運送免許を受けるに至ったこと。被告会社との間には、昭和三七年一月から期間を五ヶ年と定め、但し双方に異議のないときは一ヶ年づつ延長する旨の基本的な専属運送契約が結ばれていて、具体的輸送活動は被告会社から廻される出荷指図書により被告山崎が配車等の輸送計画をたてて実行すること。被告山崎や弟の前記登志哉らは被告会社の運転手らとして雇われていたことはなく、右輸送計画の樹立はもとより、運転手等の雇傭、運行の掌握は使用者たる被告山崎がしており、被告会社との間は積載量、輸送距離等により約定に基く運賃の支払を受けるだけで、その料金が一般市価に比し特段低廉に定められているとも見受けられない。かようにして被告山崎は被告会社の専属ではあるが、独立して運送事業をしていること。しかしその半面被告会社のみに専属していることにより、運送業務がすべて被告会社の要望を充足するように仕組まれることは当然であって、例えば被告会社は被告山崎に対し、同人の営業所を被告会社構内に置かし、事務所を賃貸し、被告山崎に同人の所有する普通トラック二台、小型トラック八台を収容するに足る土地を車庫用地として無償でこれまで使用せしめてきており、被告会社の営業活動に即応するよう輸送力を常備させていること。被告会社の出荷指図書は前日に被告山崎に廻されるが、被告会社のみの輸送のために待機しているので、これに応じて配車計画を立てることが可能であること、積載は時に被告会社従業員の協力を受けることもあり、被告会社の要望により特定の運転手に当らせることもあったこと。その外被告会社の入口には山一運送店の看板を掲げ、被告山崎所有の二、三の車輛のボデーに「進和荷材」なる文字を記載させていたこと、本件の被告車もそうであったこと。被告山崎は被告会社内の営業所以外に事業場をもっていないこと。

以上の各事実が認められる。なお右各証拠によれば、被告会社にも自家用車がないわけではなく、近距離或は緊急の輸送はこれによっても行うことがあること、被告会社の輸送は被告山崎の山一運送のみによっては到底充足されるものではなく、被告山崎には商品として段ボールのみを専ら取扱わせていたが、それもその一部であって、それ以外は数社の運送業者に委託していたことが認められるが、以上の各認定事実によれば、被告山崎の運送事業は被告会社の営業の一部門に属するものではなく、被告会社とは別個の独立したものであって、その意味では特定の運送業者(例えば日通)のみに常時継続的に運送を委託している場合と同様とも解されるが、前記のような運送営業の動機、実体から見れば被告会社に対する被告山崎の関係は、専属的で経済上はすべて被告会社の支払にのみ依存し、すべて被告会社の営業のために輸送態勢をとるよう規制されているといえる。被告会社から言えば専属契約を通じ経済的に依存させ常時輸送力を確保し得る状態に置いていると言える。この関係は、特定業者に常時発注しているという関係を超え、いわば企業がその一部門に独立採算制をとらせていることにも似た実質を具えていると言うことができる。従って被告会社が被告車の運行による利益を有し、運行に対する支配を保有していないとは言えず、被告会社は自動車損害賠償保障法第三条により後記認定の損害を賠償する責任があるというべきである。

三、損害

(一)  亡コトヨの慰藉料請求権の相続

(1)  ≪証拠省略≫を総合すれば、被告車の運転手清川恵三郎は国道を南進中、前方の東側端を南へ向い被告車に背を向けて歩いていた女学生二人に衝突して、うち一名を死亡、他の一名に負傷させ、更にその前方を歩行中のコトヨに同様背部より追突して、二五分後に死亡する程の重傷を負わしめ、その事故の無惨さ、運転の過失の重大さ故に清川は禁錮一〇月の実刑を受け服役したこと。コトヨは死亡時六二才で、その一年余り前に胆のう手術をしたが、平素から健康なたちで、炊事、洗濯その他家事一切を受持ってやっていたこと。長男の原告勇夫婦は、右協力あるが故に炭焼きを主として年収約五〇万円の利益をあげ、また自家用米にする程度の田を耕作する等、仕事に専念することができたこと。前記死亡した女学生については金四二〇万円を支払うことで示談していること。コトヨの葬儀について被告山崎より金一〇万円が葬儀費として支払われたが、その額のみでは足らなかったことが認められる。これら一切の事情を考慮すれば、コトヨの死亡により蒙った慰藉料は、原告らの主張の金三〇〇万円を以っても多しとしない。

(2)  原告らが、それぞれコトヨと、その主張の如き身分関係にあることは争いがないので右慰藉料請求権は原告らに各相続分に応じて承継取得されたというべきである。ところで原告らは自動車責任賠償保険金一五〇万円を受領しているので相続分に応じてこれを充当すれば、原告らの相続したコトヨの慰藉料請求権の残額は原告鍵本勝一は金五〇万円、その余の原告らは、各金一二万五、〇〇〇円である。

(二)  原告ら各自の慰藉料請求権

原告らが、妻あるいは母を失ったことによる慰藉料請求権は、死亡者につき生ずる慰藉料請求権の相続とは別個に発生し、併せて主張し得るものである。前項に認定した各事実からすれば、夫または子として原告らの悲嘆は察するに余りあり、老いて伴侶を無惨な事故死で喪った夫原告勝一の慰藉料は金五〇万円その余の子である原告らは各自金三〇万円を以って相当とする。

四、結論

以上により被告らは各自原告勝一に対しては金一〇〇万円、その余の原告らに対しては各金四二万五、〇〇〇円およびこれらに対する本件訴状送達の翌日である昭和四二年一一月二〇日より完済するまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。よって原告の本訴請求を右限度で認容し、その余を棄却し、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林義雄 裁判官 最首良夫 岡部崇明)

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